ルーベンスの魅力:「フランダースの犬」ネロの視点

美術史博物館
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ルーベンスの絵画をガイドする際、私は必ず「フランダースの犬」の話を交えます。子供の頃、ネロが尊敬するルーベンスの作品を目にしたら、どれほど感動するだろうと想像し、ヨーロッパに行った際には、必ず美術館を訪れ、ルーベンスの作品を鑑賞は是非観ようと思っていたほど、衝撃的な思いがあるストーリーだったからです。

今回はネロの視点からルーベンスの魅力を美術史博物館にある「マリア被昇天」を例にあげてご案内させていただきます。

トラウマになった「フランダースの犬」物語り

「フランダースの犬」といえば、私たち世代は(年齢がバレる😊)、金曜日の夜に1年間放映されていたアニメを思い出します。当時の日本中の子供たちが緊張した気持ちでテレビの画面に向かい、ネロの行く末を見守っていたものでした。

絵に情熱を持ち画家を目指すネロと、老犬パトラッシュの強い絆で結ばれながら幾つのも厳しく、困難な状況に直面するストーリーは。。。最後はハッピーエンドではなく悲劇的な運命を迎えます。

小学生だった私にとって「フランダースの犬」の最終回はものすごい絶望感に陥りましたよ。

ネロはパトラッシュに「パトラッシュ、疲れたろう。僕も疲れたんだ。なんだか、とても眠いんだ。」と言う。そして、ネロは両親や祖父のいる天国へと旅立つ。。。。

まさかこんな結末が待っているとは。。号泣、号泣。。。才能も認められず、孤独と貧困に負けた可哀想な物語りを見たショックは大きくしばらくトラウマになったほどです。

※のちにこの物語の背景や原作を書いた作者ウィーダー氏の人生を知り、フランダースの犬のストーリーに納得がいく部分が多々出てきましたが、今回は話が逸れないように割愛します。

しかし、いつか本物のルーベンスの絵画を絶対観るんだーと思わせてくれました。ネロの情熱は私に絵画に対する興味をもらたしてくれたのは事実です。

教会でのルーベンスの祭壇画「マリア被昇天」との出会い

ネロとルーベンスの絵画との出会いはアントワープにある聖母大聖堂の主祭壇画「マリア被昇天」を見た時ですね。

ルーベンスの色彩鮮やかでダイナミック、その絵画から感じる美しさに心を奪われました。彼は2歳のときに亡くした母親を重ね合わせ、絵の中のマリアには特に深い感情を抱いたとも言われています。

フランダースの犬の物語はフィクションですが、ルーベンスが描いた絵画はアントワープの聖母大聖堂に実在します。正面から見ると主祭壇が「マリア被昇天」左右には「キリスト昇架」「キリスト降架」が並んでいます。ネロの時代は左右の絵画には普段カーテンがかかっており、拝観料を払わないと見れませんでしたが、主祭壇の「マリア被昇天」は見ることが可能でした。

ウィーン美術史博物館にあるマリア被昇天 簡単な解説

ルーベンスはマリア被昇天を数枚描いていますが、ウィーンガイドの私はウィーン美術史博物館にある絵画を簡単に解説しましょう。

この作品は1625年から1626年に描かれた作品です。画面中央上の無原罪のマリアは、はためく柔らかな白いサテンと金色のドレスを着ており、彼女の肉体と魂が、翼のある天使に運ばれ、天国に昇る様子が描かれています。天使は雲のようですね。絵の右上には二人の天使が、薔薇の彼女の頭上に載せるお花冠を持っています。

一方、下方では十二使徒の一人が空になった石棺を覗き込み驚いています。左側では、3名の使徒が、大きな石の板を墓から押し除けようとしています。また、中央では、驚いた様子の使徒たちが天を仰ぎ、まるで昇天するマリアを見送るかのように描かれています。中央に描かれた女性は墓に添えられたバラや百合を見つめています。右に驚いて両手を挙げている男性も見えます。

この描写は、中世の「黄金伝説」に基づいた伝説(天使たちや女性たちの表現)で、当時のイエズス会の伝説です。

ルーベンスは宗教画を多く手がけており、その中でも特に聖母マリアの昇天をテーマにした作品を何度も描いています。このマリア被昇天は彼の初期の表現として特に重要で、31歳の若さでイタリアから故郷のアントワープに戻ったルーベンスの名声と芸術的評判は既に高まっていた頃です。

この祭壇画は実は二つのモチーフを合体させたものです。以前、ルーベンスは異なる構成の2つのスケッチを描いています。一つは信心深い女性たちが空の墓を見つける場面とマリアのひざまずく姿をキリストによって冠をかぶせられるシーンの構図、そしてもう一つは、使徒と女性たちが開いた石棺の周りに集まっている構図です。ルーベンスが描いたこのマリア被昇天は、その二つが組み合わされたものとわかります。

1621年から18世紀の70年代にイエズス会が解散するまで、この祭壇画はアントワープのイエズス会教会の右側の側廊にありました。1775年、ウィーンの帝国絵画ギャラリーのディレクター、ヨーゼフ・ローザによって、イエズス会に属する20点以上の作品と共に購入され、現在は美術史博物館に展示されています。

ルーベンス 宗教画の特徴

ルーベンスの宗教画の特徴は下記の用にまとめられます。ヨーロッパ中の美術館にたくさんルーベンスの絵画がありますので、是非参考にしてください。

1. ダイナミックな構図

 ルーベンスの作品は、動きのある構図が特徴で、人物や物体が流れるように配置することで、見ている人が視線が巡るように描かれています。この視覚的な動きが人物を生き生きとさせてくれます。リズミカルですね。例えは、マリア被昇天では石を持ち上げる男性とマリアを対角線に構図を設置する事で、絵画にエネルギーを与えてます。

2. 豊かな色彩

イタリアルネッサンスに影響を受けているため、滑らかな質感と鮮やかで深みのある色使いが、彼の作品の大きな魅力です。油絵を利用して、特に、暖色系の色合いが際立ち、感情を強調します。

3. 光と影のコントラスト

 ルーベンスは光の使い方に長けており、明暗のコントラストを駆使して立体感を生み出しました。これにより、作品に深みと奥行きが感じさせます。下の部分とは対照的にマリアの洋服の色はまるで光を放しているようですね。

4. 表情豊かな人物

彼の描く人物は、大袈裟すぎるほど表情や姿勢において非常に感情豊かなので、感情がリアルに伝わります。動きやジェスチャーも豊かで物語性を強調しているため、観る者に強い印象を与えることができます。マリアの遺体がない棺を覗き込んでいる男性の驚いた顔は実にリアル。マリアが無原罪である証明を表現しています。

5. 神話や宗教の題材

ルーベンスは、神話や宗教的なテーマを多く取り扱うことが多く、特に聖母マリアや神々を描いた作品が多いです。これにより、カトリックの精神的と感動を見る人々に与えています(反宗教改革の一環でもありますが、ここで説明は割愛します)

ルーベンスの絵画全体に言えることなのですけど、これらの特徴が組み合わさることで、視覚的な魅力だけでなく、感情的な深みを持った作品となっています。さすが、バロックの巨匠ルーベンス❗️彼の技術と創造力は、バロック時代の美術において非常に重要な位置を占めているのも納得です。

ネロはルーベンスのどこに魅惑されたのか❗️

ネロは貧しい家庭に育ち、絵の具や画用紙を手に入れることすら困難な状況でした。しかし、そんな彼がある日目にしたのは、聖母大聖堂にあるルーベンスの壮大な祭壇画でした。この作品は、彼にとってまさに圧倒的な存在感を与えたことでしょう。

その美しさと迫力、華やかな色彩と力強い構図はネロには衝撃だったはずです。色合いの中に息を飲み、絵画の持つ美しさに感動したことでしょう。彼にとって、それはまるで別世界への扉が開かれたかのような体験だったと思います。

そして、絵に描かれた人物たちの豊かな表情や感情は彼の心に深く響きました。特に、母親を亡くしたネロは、絵の中のマリアの姿に母の面影を重ね合わせてしまったのです。その瞬間、彼は深い感情に包まれ、失った母への思いが胸を締めつけました。ルーベンスの作品は、彼にとってただの絵ではなく、心の奥底に眠っていた母を思う感情を呼び起こす存在となったと思います。

ネロは主祭壇画を見て、画家としての夢を強く意識し、情熱が高まりました。貧しいながらも、彼はこの美しい芸術に魅了され、心の中に、芸術への希望と夢、そして生きる目的が新たに芽生えた瞬間だったわけです

最後に

この物語の主人公は、実はネロではなくパトラッシュです。作者ウィーダー氏は大の犬好きで、動物保護の先駆者としても知られています。パトラッシュは労働犬として厳しい扱いを受けてきましたが、最後には大好きなネロと共に、ネロが愛した絵画の前で天国へと召されていきます。

しかし、残念なことにこのアニメを観た日本の子供たちは、「パトラッシュ、良かったね。最後はネロと一緒に天国に行けたね」と喜ぶ声は少ないのではないでしょうか。彼らが注目するのは、むしろネロの悲劇や、彼が抱えた夢と苦悩に焦点が当たっているからです。パトラッシュの存在も、感動的な要素ではあるものの、どうしてもネロの物語が前面に出てしまいがちです。

それでも、パトラッシュの無償の愛や忠誠心は、私たちにとっても大切なメッセージを伝えてくれます。そして、ネロとパトラッシュはルーベンスが描いたマリア被昇天の絵画のように、羽のある天使達に天国に運ばれる。

この物語を通じて、ルーベンスを知った子供たちも多いはずです。私にとっても絵画に興味を持つ大きなきっかけだったわけですけど。。

ですが。。あんまりだわ。。この最後は。。

参考

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